東京都”中央区びと。”に聞く中央区おすすめスポット
トラベルニュース社
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多層化する兜町
私自身が兜町に対して抱いていたイメージが大きく変わったのは、どうやら1999年の株券の電子化やインターネット取引などによって、東京証券取引所の株券売買の立会場が閉鎖されたためだったようです。かつての立会場では、毎日2,000人を超える証券会社の人たちが、場立ちといって、手を使ったサインを送り合って売買注文を伝達していたそうです。その頃の兜町は、スーツに身を包んだビジネスパーソンが行き交う街だったのですね。そんな街のイメージが、立会場の閉鎖によって徐々に、少しずつ、変わっていきます。近頃は、カジュアルな普段着の人たちを多く見かけますし、女性や家族連れも増えたように思います。街歩きのエリアとして、さまざまな人たちに愛される街になりつつあるのではないでしょうか。振り返れば、私もこの頃から、兜町に足を踏み入れ、街歩きを楽しむようになりました。

あらためて兜町を見渡してみると、金融・証券の街として日本経済の発展を支えてきたことが、多くの史跡や現存する建物によって確認できます。現在のみずほ銀行兜町支店の外壁には「わが国銀行発祥の地」という銘板が設置され、日本最初の銀行である「第一国立銀行」が渋沢栄一によってこの地に創設されたことを示しています。渋沢栄一邸も兜町にありましたが、関東大震災で焼失し、その跡地に建てられたのが「日証館」です。兜町の大家さんと呼ばれる平和不動産が保有し本店を置くこの建物は、昭和3年(1943年)に建設されましたが、リノベーションを重ね、現在でも利用されています。また、渋沢栄一が日本経済の繁栄を祈念して兜町の邸宅に置いた縁起石「佐渡の赤石」は、兜町の新たなランドマークである「KABUTO ONE」のアトリウム内に展示されています。兜町の街歩きは、こうした歴史的なスポット巡りからはじめても良さそうですね。
一方、兜町が現在のような賑わいを見せるようになるために、どのような仕掛けが用意されたのでしょう。まず2020年に開業した「K5(ケー・ファイブ)」は、100年ほど前の元銀行(第一国立銀行旧別館)をリノベーション。ホテル、レストラン、カフェ、バー、ビアホールという複数の機能を併設することで、さまざまな人たちが立ち寄り、多くの時間を過ごすようになりました。地下のビアホールでクラフトビールを味わう私もその一人です。そして、兜町の新たなランドマークとして2021年に開業したのが「KABUTO ONE(カブトワン)」です。低層階のアトリウムには世界最大規模のキューブ型LEDディスプレイを設置し、投資家と企業の交流拠点となるカンファレンスやライブラリー・ラウンジも整備されました。さらにハイアット社の最新ライフスタイルホテルブランド「キャプションbyハイアット」が、2025年の開業を予定しています。兜町に滞在し、この街ならではのアクティビティを体験できる施設となるでしょう。


金融・証券の街として日本経済の発展を支えてきた、兜町の歴史的な資産の数々。そして、新たに開発された施設の交流拠点としての魅力。さらには個性あふれる飲食店の数々など、時間的にも、文化的にも、幾重ものレイヤーが重なり合って、この街を訪れる人たちを魅了するのかもしれません。たとえば、かつて株券売買の立会場に立っていた人たちが「ステーキを切る時間もないから切って出してほしい」とリクエストしたという洋食店「バンボリーナ」で、この店発祥のサイコロステーキをいただいたら、こんどは和歌山の蔵元が新たに開設したという「平和どぶろく兜町醸造所」にて、できたてのどぶろくを味わってみる。そんな多層化した愉しみも兜町ならでは。みなさん独自のレイヤー経路を辿って、堪能してほしいと思います。
多層化する兜町



